島では珍しいクールな外観の建物に、爽やかなライトブルーの「YUDEN」ロゴ。
この事務所を構えるゆうでんは、住宅や施設の給排水の工事、空調設備の施工を行う会社だ。
社長の波多誠さんは海士町出身で、家電の販売・修理をする電気屋の次男坊として生まれた。幼い頃から勉強よりも身体を動かすほうが好きで、技術を身につけてものづくり系の仕事に就こうと、島根県立松江工業高校(松江市)に進学する道を選んだ。
「でもまさか、卒業してすぐUターンするとは夢にも思わんかったですけど…。実家の電気屋が大変で、即戦力として呼び戻されました。そこからは、がむしゃらに働いてきましたね」
そして2010年、父親の個人事業だった家業を株式会社化し、事業を継承して代表取締役に就任。島民に浸透していた「ゆうでん」の社名はそのまま残し、水道まわり、エアコン工事等まで守備範囲を広げて、株式会社ゆうでんとして新たなスタートを切った。
「現在の社員は、この事務所(給排水・空調関連)に4名。それと最近始めた板金塗装業に2名。年齢は40歳から47歳です。設置や配管などの施工業のほうは、公共の施設が7割、残り3割が民間の家屋という感じ。海士町に住む全員が顧客なので、スタッフの人数的にはギリギリ。みんな常にどこかの現場に出ていて、日中は事務所に誰もいない状態ですね」
ゆうでんの社員は全員40代。若者というわけではない…というかむしろ皆おっさんなのだが、いたずら好きの少年のような面影を残す大人ばかりだ。
「良い意味で、遊びやさんっていうのかな。まさに “類は友を呼ぶ” で、いつの間にかこんな集まりになってた。子どもの頃にしてた遊びを大人になってもやってるやつらばかりです。遊ぶだけじゃなくて、仕事と遊びの切り替えが上手いってことですよ。以前は、昼過ぎに仕事が終わればみんなで魚釣りに行ってた。最近はよくラジコンで遊んでます。ラジコン好きも、原点はものづくり。子どもの頃に夢中でやってたプラモデル作りが、この世界に入る原点になってるんだろうね、今思うと」
島の挑戦に、自分たちも関わりたい
自社だけではなく島全体のことを考える視点を持っていたい、と言う波多さん。
島の未来のために自分には何ができるか。この問いに正面から向き合うようになったのは、2015年に立ち上がった「明日の海士をつくる会」、通称「あすあま」に参加したことがきっかけだった。
あすあまとは、「まち・ひと・しごと」創生総合戦略の策定と実現を目指すために結成された、海士町住民による会議のこと。観光や福祉、教育、漁業、農業、建設業や飲食業といった多様な分野の民間の有志らと町役場職員が、共に議論を重ねていた。
「あすあまでは、この先50年どうすんだっていうことをみんなで考えてました。そこに参加したことで、海士町の未来のためにはアレが必要だ、コレは残さないといけない、でもコレはこういうふうに形を変えないといけないとか、そういうことを常に意識するようになった。自分や自社のアクションが巡り巡って町のためになる、そういう“循環” の意味が分かるようになったり、島に昔からある工場や、地域の伝統など、なりゆきに任せたら失われてしまう “大事なもの” を守るために『今、手を打たねば』と感じられるようになったり。自分の中では大きな変化でした」
ゆうでんは、海士町複業協同組合(以下、複業組合)の立ち上げに関わり、波多さんは発起人の5名に名を連ねている。複業組合は、海士町内の複数の事業者が連携し、季節ごとの仕事量に応じて組合職員を派遣する仕組みだ。年間を通じた雇用の創出と人材育成、ひいてはU・Iターンの促進を狙う、全国でも先進的な試みとして、2021年からスタートした。
「複業組合に関わったのは、当社の利益がどうとかメリットがあるとかじゃなくて、海士町全体としてそういう人の集め方も必要なんだろうなと納得できたからです。ゆうでんも、町のチャレンジの方向性と歩調をそろえることが必要だろうなと思って。実は、複業組合からの派遣はうちのような建設業では受け入れられないんだけど(※労働者派遣法の規定による)、たまたま今、農業をやりたい社員が1名いて、複業組合に協力してもらったら農業にも挑戦できるかもしれない。そういう事例をひとつ作ることができれば、複業組合の見え方もまた違ってくるはずだしね。…要は、種まきですよ。未来への」
長期的な視点での、島のためのアクション。最近始めた自動車の板金業も然りだ。
島で長く板金塗装を営んでいた会社の社長が、体調不良をきっかけに突然事業を閉めると言い出した時、波多さんは即、動いた。
「その時は、とりあえず工場をうちの会社に譲ってくれとだけ言ったんだけど…、でもよく考えたら、板金がなくなったら町にとってはかなりの損害。だって車をぶつけるだけでお金がどんどん本土へ出ていく。なんとか残したいと考えるようになりました。たまたま先輩に板金経験者がいて、先代とも親しい。だったら彼に工場を任せて、板金もうちの事業としてなんとか存続させようと、取り組み始めたところです」
信用を売る。それが俺たちの “ものづくり”
ものづくりと言っても、メーカーのように製品を作っているわけではない。
ゆうでんがつくる “もの”は、最初は目に見えない。家や施設が出来上がった後にも、その全容は見えない。彼らが提供するのは、裏側で働く仕組みや機能そのものだからだ。
「何かを選んだり買ったりするときって、普通はモノを見てから決めるだけど、俺らの仕事は最初はモノとして見えない。工事完了した後も、換気扇や蛇口とかの部分は見えてるんだけど、俺らがやったこと自体は単体ではとらえられないよね。床下や天井裏の配線や配管がどうなっているか、システムとしてその中にどのくらいの部品を使っているか、普通は見えないでしょ。つまり『信用』を売っているということ。例えば大工だったら家を見たら上手か下手か分かるけど、施工の良し悪しは、家を長く使ってみて初めて評価されるもの。問題なく使えることが当たり前だから、価値を感じてもらいづらいかもしれないけど…、日々の仕事をコツコツやって信用を積み上げていく、地道な商売なんですよ」
と言って笑いながらも少し誇らしげな波多さんと、周りでうなずく社員たち。
見えない部分も含めての、“ものづくり”。それは長年かけて築いた信用とプライドで出来ている。
職人集団ゆうでんの一員になるなら、施工関連の経験が有るに越したことは無い。だが、社長曰く「ものづくりに興味がある人なら経験は問わない、資格の有無も問わない」とのこと。年齢も特にこだわらず、資格取得のための費用は会社でサポートする方針だ。
どんな人材が欲しいかと聞くと、「ごんた!」と即答する。ごんたとは海士弁で、やんちゃな負けず嫌いのことだ。
「この業界は、職人としての自分の成長は退職するまでに完成しないし完結もしない。現状のスキルで満足する人はもう伸びないし、どんどん探究する人が伸びていく。だから、負けず嫌いなほうがおのずと良い方向へ行きやすいです。あと、島の生活は不便が多いから、精神的にも強くないとね」
…なるほど。ごんたなら、厳しい職人の世界でもしぶとく生き抜いていけそうだ。波多さん自身、筋金入りのごんたであると見た。
「あと、島暮らしをうまくやっていくコツは、すべてを楽しむことだと思う。で、楽しむために努力が必要。仕事も同じで、働く楽しさを味わうためには努力が必要だと思ってます。俺は楽しみたいから頑張るし、新しく来てくれる人にも、一緒に楽しもうと言いたい。俺ら地元民の言葉はきつく聞こえるし最初はサッパリわからんと思うけど(笑)まとめると…ごんたで、地道に努力できて、かつ、この島を楽しむことが出来る人は、ウエルカム!!ってことですね」