株式会社 川本サッシ

「最初はみんな経験したことがないけん。大丈夫。妻も全然サッシの仕事なんてしたことがなかったけど、2〜3年連れて回っていたらできるようになったから」
秋晴れの中、お客様のカーポートの屋根を取り付ける作業を、脚立に乗った川本夫婦が並んでやっていた。「私は職人じゃないんだけど」と隣で笑う妻の歩さん。海士町で生まれ育った幼馴染でもある二人は、Uターン後に継いだ家業で生計を立てている。島の建設業の一端を担う仕事にやりがいを感じながら、島での日々も充実した様子で、いつも笑顔が絶えない。

生まれ育った町で働く

「もともとこの家が建っていたんだけど、事務所に改築して、裏に家を建てたんです。どうせなら広い事務所にしようと思ってね」

木造の広々した事務所でインタビューに答えてくれた川本さん。故郷に戻って11年。創業者である父から代が変わったのは3年前で、現在はこの事務所に両親と、妻と4人の役員体制でデスクを囲んでいる。

建築系の専門学校を卒業した頃からなんとなく将来島で働くことを決めていた。

「大阪に出たこともあるけど、都会はやっぱり自分には合わんなぁとわかりました。いずれ戻ってこようと思ってはいたけど、それが遅いか早いかの問題でした」

父の勧めもあって、そのまま帰らず島外で何かを身につけてから帰るため、松江市の同業種の工事員として5年ほど働いて島に戻った。

島の仕事は、都会と違って「顔が見える」と言い、そこが川本さんは好きだという。

「元請けさんや大工さんもみんな協力してくれるし、すごく仕事しやすいですよ。本土にいると、建築の工程で、自分の職種しか関わることがなかった。関係ない人はほとんど顔も知らなかったけど、海士町は真逆。現場行くとみんな知った顔で、困ったことあったらちょっとお願いだから手伝ってとか、気軽に言える関係性がいいかなぁ」

可能性はいくらでもある

仕事は多岐に渡る。

「松江にいた時はシャッターとスチールのドアくらいしか扱ったことがなかった。今はやることの幅がとても広いですね」という。

事業内容は、基本的には鋼製建具と言われるもので、アルミサッシ、シャッター、その他付随するもの、鍵や自動ドア、ガラス工事が主だ。

「基本的には隠岐島内の工務店さんと、一般顧客は島前地区の西之島、知夫も回っています。今は妻と二人で現場を回っていて、なんとか仕事が追いつくくらいですね」

島を愛する一人として、自分たちの世代、そのまた次の世代のことを考える。業界の職人も年齢層が高くなっていて、「働き盛りの30代前後をもっと増やしていきたい」と川本さん。島の仕事は、近いネットワークのなかで役割分担がきちんと分かれていて、それを維持していくにはスムーズな世代交代が求められていて、建設業界の仕事の魅力をもっと伝えることが必要と感じている。

「隠岐地区の建設業界がちゃんと回れるようにその一員としてやっていけたらなぁと言うのしかない。自分だけ儲けてやるとか、本当は儲けんといけんけど、それより前にみんなと協力してやらんと、儲けも出てこんし、仕事も生まれない。それが一番大事だと思う」

時代の変化とともに、変わることもある。そこに新たな可能性があると川本さんは話す。最近でいえば、以前は玄関取替などで下枠の補修を左官屋さんに頼んでしてもらっていたモルタル補修も、自分たちでやれることはやるようになった。

「広く浅くなんでもすることも必要になってくるかもしれない。この職種に拘ってないわけじゃないけど、他にも違う業種も攻めて行けばいいんじゃないかと思っています。海士町の中でも手薄な業種はあって、その職人さんが来てくれるなら一番それがいいんじゃないかなと思う。内装工事やペンキ塗装、基礎工事も元請けさん自分たちでやるからいいけど、個人とかそこまで手が回らないと思うし、そこら辺もやれるならそこに向かっても面白いと思っています」

父が現場を離れてから、大変な時期もあったが妻の歩さんが徐々に仕事を覚えてくれ、多くの依頼に応えていくことができている。「もっと人がいたら、もっと新しいことが生まれるかもしれない」。内装など事業拡大を思い描いている。

暮らしも充実できる島

「最初は帰るつもりはなかったんですけど、帰ってみたら案外楽しく暮らしています」と歩さん。大きなショッピングセンターがあるわけでもないが、人同士のつながりがあるおかげで子育てもしやすく、海や山がすぐ近くにある海士町の環境は大人になった今だからその良さがわかるという。

「私はみんなが知り合いというわけでもなかったけど、結婚したら川本が自営業だからどこ行っても川本の奥さんでしょうと言ってもらえるし、みんな話しかけてくれて楽しいなと。海も綺麗だしね。最近マリンスポーツもしている、バナナボートやサップしたりしています」

棚には、海士町ののどかで壮大な自然の中で、3人の子共たちと一緒に写った家族写真が飾ってあった。

「海士町に、うちの会社に来てくれるなら、まず島暮らしに興味がある人がいいなぁ。魚釣りが好きでもいいし、海が好きな人。あとは毎日ちゃんと出てくれる人。仕事のことは心配せんでも大丈夫ですから」と胸を張る川本さん。

アットホームな雰囲気の川本サッシは、まさに島の身近な暮らしを支える会社の一つだ。

 

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