島中から頼られる大工さんが、
共に働く仲間を募集
「強面というよりも、危険な匂いがすると言われます(笑)。こんな感じですが、商工会の中でもいじられ役になることが多いですね。後輩が僕をいじると盛り上がるので、そういうのも受け入れています」
作業着はサングラスをかけている中畑さん。一見すると怖そうに見えるが、話してみるとそんなことはなく、むしろサングラスの下の大きな目はチャームポイントになるくらいだ。「小さい頃からずっと『みっちゃん』なんで、もうそれで通っていますね」。そう話す笑顔を見ると、島の中で愛されているのがなんとなく伝わってくる気がした。
生まれ育った島で、父を継いで大工になった中畑さん。その丁寧な仕事が評判を呼び、住まいのことなら大工の「みっちゃん」を頼る人は多い。
一度は出た島での大工仕事が面白くなった
「もともと親父が大工をしていたんです。小さい頃は親父が家で木を加工するところは見ていたけどそこまで(大工に)興味はなくて。すごいなとかそういう感情もなく、また親父が木を削っているなぁと思っていたくらい。でも、親から継いでほしいというプレッシャーはあって、なんとなく大工になるんだろうなあと思っていました」
一時は料理人に憧れたが諦め、建築の学校で学ぶために大阪に出た。「勉強もせずに遊んでいましたね」と当時を振り返るが、その頃パチンコ屋のバイトをしていたといい、そこで出会った友人に誘われて建設業界で働くようになった。
島に戻ってきたのは、約15年前。30歳になろうとしていた頃だった。
「親父の仕事が忙しくて手伝いに帰ってこられないかと相談があって、働いていたところに少しの期間、実家に帰らせてくれと言ったんですね。半年くらいだったかな。その間、親父の仕事を手伝いながら、大阪でやっていることとこっちでやっていることが変わらなくて、どっちも一緒だなぁと思ったんです」
実際、働いてみると、島での大工仕事が面白くなった。
「ものができていく、手をかけるほど、目に見えて綺麗になっていく。木をうまく合わせていくとか、丁寧にやればやるほど綺麗になっていくんだなぁと。やりがいを感じるようになりました」
抱えきれないほどのリフォーム需要
5年ほど父親と一緒に働いたが、今は一人親方であちこちの現場に引っ張りだこ。仕事は想像以上に多く、ありがたいことに忙しい毎日があっという間に過ぎていくという。
「全然追いつかない。やり終えてもまた次の依頼があって、溜まる一方ですね。地元の年配の人からは『暇になってからでいいよ』と言ってくれるんでそれに甘えちゃって…。お客さんも2年、3年待ってもらっているところもあるんです(笑)」
島内の住宅事情をいえば、30〜40年前が建設ラッシュ。それから住宅の耐性を考えるとちょうど傷みも出てくるところであり、また世代が変わるタイミングでのライフスタイルの変化に伴ったリフォームの依頼が増加している。特に浴室とかキッチン周りといった水回り関係が多いという。
「昔、あんたのお父さんに建ててもらったという家もあったりしますよ。海士町では、この家は代々この大工さんが担当しているみたいなつながりがずっとありますが、それ以外にも同世代のつながりから新しいお客さんも増えたりしています」
お客さんも、仕事仲間たちにも、島特有の距離感やあたたかな関係性がある。中畑さんはそこが好きだそうだ。
「地元の人はおおらかというか、ある程度融通を利かせてくれるというか、余裕を持って仕事ができる。用事があって1〜2時間抜けるわ、と言っても「いいよいいよ」と。緩いところもあってそこがいいんですよ」
町を歩いていたり、飲み屋にいけば知った顔と出会って、そこから仕事を頼まれることも多い。
「飲み屋で会ってちょっと『今度家のここを見てくれ』とかも言われるんですけど、翌朝覚えてなかったりします(笑)。たまたま出会った時に『言おうと思っていたんだ』とかもあるし、そういうお客さんとの距離感なんですよね」
島の人にとって、それほど身近に住まいのことを相談できるのが中畑さんであり、いわば海士町の大工なのだ。建築関係の事業者は現在、中畑建築を含めて6〜7社ほどある。中畑さん曰く、それぞれが公共工事を主に請け負う会社もあれば、個人客を相手にしている会社もあって「みんな忙しそうにしている」という。「でも、今一番若い大工が20代後半くらいで、30代はいないし、僕の上も50代はいないですからね。その辺は気にはしています」。仕事は尽きないだけに、その担い手がきちんと続いていくようにしないといけないと自覚しているという。
何よりもお客さんとの対話を大切に
「一番大切にしているのが、施主さんとしっかりコミュニケーションを取ること。お客さんの思いや求める条件を100パーセント形にできるように話をつめていきたいといつも思っています。僕らの仕事は、最初の打ち合わせが大事。出来上がったものが『こんなの求めてない』と言われてもダメですし、そこはお互いの信頼関係にもつながりますから」
お客さんからの要望を聞きつつ、建材や工法など専門的な視点から見た丁寧な説明を心がけているという。
「材料一つとってもメリット、デメリットありますから、そこをちゃんと理解してもらわないと。安い建材でいいと言われて使っても、その分劣化も早かったとなると、こちらの説明不足だったということになります。例えば、床材は張り合わせたものだと冬場は冷たいとか。値は貼るけど本物の木材の方が暖かいですよ、とかメリットもリスクも伝えます」
仕事に対してはどこまでも真面目な人。売り上げや自分勝手な仕事のやり方を良しとはせず、大工としてお客さんに何を提供できるかを大切にしている。それは仕事に対する姿勢にも現れる。
「僕は、綺麗に仕事をしたいと思っているんですね。作業している周りに道具が散らかったりしていたりも嫌だから、使ったものは置きっぱなしにせずに片付けます。大阪で建設業をやっていた時、師匠が綺麗好きで、そこで仕込まれたんですよね。仕事ではお客さんがいらっしゃる現場が多いので、綺麗に仕事している方が見栄えもいいし、その方が気持ちもいいしね」
その人の仕事ぶりは道具を大事にするかとか、ちょっとしたことに全て現れる。優しい人柄がわかる会話のやりとりやきちんと整頓された工場を見れば、中畑さんがどういう大工かがわかる気がした。
女性も歓迎。今にない新しい感性を求める
海士町で長く職人として働いてきた自負がある一方、一方で、自分にはない新しいものを取り入れていきたいという中畑さん。一人では抱えきれない仕事をこなしていきたいということもあるが、従業員を雇うことで良い意味で変化にも期待している。
「そうですね、器用な人とか、社交的であるとか。女性がきてくれるのも嬉しい。最近は、女性の大工も増えてきていますし、女性目線の柔らかい感じの仕上がりとか、そういうのも提供できたらいいかなと思っています」
Iターン、Uターンの人も多い海士町だけに、従来のやり方ではあまりなかった要望も増えてきており、それらに答えていく必要があるとも感じている。
「いろんなジャンルを受けられる事業所でありたいし、お客さんそれぞれ色があるので、そこに対応できるスキルは身につけておきたいですね。一緒に働きながら、島で培った僕の感覚ややり方も伝えるし、逆に、思っていることは伝えてもらいたい。そんなやりとりができたら、楽しく仕事できるんじゃないかなと思っています」
職人として技術をつけたい人、自分の感性を活かすことに興味がある人なら即戦力かどうかは大事ではないと中畑さん。
「経験者が来てくれればそれは嬉しいけど、経験はそこまで求めていないかな。ど素人でもやれることは結構あるし、やる気さえあればすぐに覚えてもらうこともある。一応、職人の世界では5年が一括りになっているけど、3年くらいガッツリやってもらえたら、ある程度の仕事はできるようになるんじゃないかなと思う。安心して、海士町にきてもらえたら」